既存のソフトウェアにAIエージェントを加えることは、新しいチャット欄を設けることとは違います。Toastのアプローチは、飲食店の運営者がすでに行っている仕事を起点に、質問への回答や作業の完了に役立つ場所へAIを組み込むものです。AIエージェントは、情報を提供するだけでなく、タスクを実行するために設計されたツールです。取引や日々の業務を扱うプラットフォームでは、その能力をどこに生かし、どこでは従来の習慣や安全策を維持するかが、製品設計上の重要な判断になります。

運営者の一日を起点にする

Toastの飲食店向けプラットフォームは、決済端末、携帯端末、厨房内の連携、在庫管理、シフト管理、注文にまたがります。同社のPOS(販売時点情報管理)システムは、飲食店での購入を記録します。マネージャーは、勤務中に店内を歩きながら、あるいはバックオフィスで準備作業をしながら、こうしたツールを使うことがあります。この利用場面は重要です。役立つAIの入口は、運営者に作業を中断して別の画面を探らせるのではなく、その時々の仕事に合っている必要があります。

飲食店の運営者は、利益率が低い中でも事業を営んでいます。そのため、AI機能の価値を測るうえでは、目新しい回答よりも、削減できた労働時間、増えた売上、減らせた経費が重要です。製品チームは、どの業務を自動化するか決める前に、飲食店がどこで収益を上げ、何に費用を使っているかを理解する必要があります。

既存のプラットフォームには、もう一つの制約があります。顧客はすでにその使い方を知っているということです。慣れた操作の流れを一度に置き換えれば、日常業務がかえって難しくなりかねません。そこでToastは、利用者が見ているページや時間帯に合わせた、あらかじめ用意された質問例とともに、アプリ内へ状況に応じたAIの入口を設けました。こうしたプロンプトは、空欄のチャット欄だけでは何ができるのか分かりにくいという問題に対応します。

厨房の仕込み台に置かれたスマートフォン、ノート、コーヒーカップと、その奥で文字を入力する人

▲ 店舗業務中のAI利用

広く提供する前に新しい使い方を検証する

Toastは2023年後半、最終的な機能仕様を固めないままAI機能の開発を始めました。飲食店の顧客10社を設計パートナーとして迎え、WhatsAppのグループで直接フィードバックをやり取りしました。初期のモバイル向けレポートアシスタントをこの少人数のグループに提供し、約1年にわたる密な改善を重ねました。

基盤となるAIモデルが改善し、2025年初めまでにはより広い範囲への展開が可能になりました。Toast IQは2025年10月に一般提供を開始しました。この順序は、成熟したソフトウェアでリスクを管理する現実的な方法を示しています。開発途中の機能を幅広い顧客に提供する前に、限定したグループを通じて運営者が実際に何を求めるかを学ぶという方法です。

こうした慎重さが重要なのは、処理が遅い、不正確、あるいは不具合のある機能が、飲食店が日々頼るソフトウェアへの信頼を損ないかねないためです。この考え方は提供開始後にも当てはまります。AIの能力やプラットフォーム内のほかの機能との連携が広がれば、画面の見た目がほとんど変わらなくても、利用者には新たな案内が必要になる場合があります。

回答から実務の支援へ進む

Toast IQは、情報の取得から運営者の行動支援へと進む過程を示しています。デモ環境では、業績を尋ねると、2026年9月21日月曜日の純売上高が$5,323.75、注文が87件、来店客が97人と示されました。平均会計額は$61.19でした。続けて前週の月曜日との売上比較を求めると、次の結果が返されました。

日付 純売上高
2026年9月14日 $4,140.92
2026年9月21日 $5,323.75
増減 +$1,182.83(+28.6%)

この比較では、来店客数が減った一方で平均会計額が上がったことが、売上増の理由とされました。会話形式でこうした数値にアクセスできれば、運営者は複数のレポート画面をたどらずに済みます。初期の利用では、テクノロジーにあまり慣れていない運営者も、このアシスタントをすぐに使い始めました。ソフトウェアのメニューから目的の項目を探すより、普段の言葉で質問するほうが簡単だったためです。

次の段階では、エージェントらしいタスクに近づきました。Toast IQは、Pre-Paid DinnerやPepperoni Flatbreadを含む売上上位の商品を特定し、メニューについて尋ねられると、既存のフラットブレッド8品目を取得しました。スパイシーソーセージとローストペッパーを使ったフラットブレッドの案を提案した後、品目、メニューグループ、価格の欄を備えたメニュー項目のカードを作成しました。価格は$14.99と入力され、その後$15.99に変更されました。

重要なのは、このカードがPOSへの公開前に運営者の承認を求める形で、変更を準備していたことです。AIは、運営者の知らないうちに実際のメニューを変更することなく、作業の準備を進められます。この境界を設けることで、既存の業務フローからより素早く行動に移りながらも、最終判断は運営者が握れます。

タブレット上の簡潔なアクションカードを確認し、タップしようと指を構える飲食店の従業員

▲ メニュー変更前の運営者確認

Toast IQ Growは、同じく成果を重視するアプローチをマーケティングに適用しています。飲食店によるメールやSMSのキャンペーン作成を支援し、その配信をPOSに記録された購入と結び付けます。利用したある顧客は、外部のマーケティング会社への支出を70%超削減しました。この数字は単一の事例によるもので、すべての飲食店で期待できる成果ではありません。この製品の価値は、運営者が評価できる事業成果と作業を結び付ける点にあります。

製品チームは現場の仕事から離れない

エージェントを加えると、チームが理解すべきことも変わります。一般消費者向けのAIツールによって業務用ソフトウェアへの期待は高まり得ますが、飲食店の業務フローには依然として信頼性が求められます。製品責任者は、厨房や接客の業務を観察し、タスクの背後にある経済的な負担を理解するとともに、新しい能力に何を安全に任せられるか判断できる程度には、技術にも精通している必要があります。

Toastの製品責任者は、定期的に実務担当者の仕事を担い、Toast IQのような重要な取り組みでは現場のチームと直接働いています。こうした実務への関与は、計画や進捗報告だけに頼るのではなく、AIが開発速度や製品の振る舞いをどう変えるかを責任者が見極める助けになると考えられます。

変えるべきこと、守るべきこと

既存のソフトウェアにエージェントを加えるチームにとって、優先事項は具体的です。

  1. 費用や売上への影響を測定できる、顧客が頻繁に行うタスクを特定します。
  2. 全員の利用体験を変える前に、少人数のグループで初期案を検証します。
  3. 顧客がすでに使っている業務フローの中に、状況に合った明確な入口を設けます。
  4. AIに作業を準備させつつ、重要な変更は利用者の確認を経るようにします。
  5. 機能が変化するたびに顧客の職場へ足を運び、製品で新たに何ができるようになったかを説明します。

Toast IQの例からは、最も有用な変化は、古いソフトウェアをまったく新しい画面に置き換えることではないと考えられます。むしろ、情報を表示するだけだった使い慣れたツールが、運営者の仕事の完了まで支援するツールへと変わることにあります。その際も、運営者が頼りにする信頼性と管理権限を手放す必要はありません。