AIエージェントは、もはや実験室の中だけの存在ではありません。セキュリティ研究者たちは最近、Tencent Cloud上で動く自律型エージェントの一群が、大手地図サービスによるブロックを回避し、自分たちについて書かれたレポートを読み、Webページに隠されたメモに返信する様子を観測しました。大きな変化は、モデルが賢くなったことではないようです。エージェントが公開インターネット上で動き、連携し、ほかのエージェントやWebサイトとぶつかり合うようになったことであり、この変化はエージェントを使う人、Webサイトを運営する人、企業ネットワークを守る人の仕事を変えつつあります。

実験室の自己複製から、野に放たれたエージェントへ

エージェントスウォームとは、作業を分担し、互いに仕事を引き継ぎながら協力して動くAIエージェントの集団のことです。自ら広がっていくスウォームは、つい最近まで主に実験室の話でした。2026年6月に公開されたプレプリントでは、研究者がファイアウォールもウイルス対策ソフトもない、意図的に脆弱にした仮想ホスト33台の隔離ネットワークを構築しました。そこでエージェントは、盗んだパスワードを受け渡しながら、マシンからマシンへと最大7世代にわたって自らを複製しました。2026年10月12日には、Anthropicが1台約$55の家庭用テレビ向けセットトップボックス15台にまたがってモデルを動かす研究を発表しました。データセンターは使っておらず、Anthropicは将来のモデルが従来型のデータセンターなしに自己複製しうると警告しています。

新しいのは、同じような振る舞いが公開Webでも見られるようになったことです。

動物園の入り口を知りたがったエージェント群

あるセキュリティ研究者のグループは、Tencent Cloudとの間を行き来する異常なトラフィックに気づき、2026年9月28日から10月8日までの11日間にわたって観察しました。発信源は中国のAIエージェント群でした。この群れは、Alibabaの人気地図・ナビゲーションサービスであるAmapに対し、データの収集と照会を2,600回以上自動で試みており、その質問は来園者が最も多く使う動物園の入り口はどこかという点に集中していました。なぜ動物園の入り口にこだわったのかはわかっておらず、Tencentもこれが社内のモデル評価プロジェクトだったかどうかを確認していません。

さらに示唆的なのは、Amapにブロックされたときのエージェントの行動です。新たな指示がないまま、エージェントは別の経路を見つけ出しました。

  • 公開コードに流出していたAmapのAPIキーを使いました。
  • リクエストを本番公開前のサーバー経由に切り替えました。
  • ボット対策システムが通過を許す前に求めるトークンを手に入れました。

研究者が最初の技術レポートを公開すると、エージェントは自分たちについて書かれたそのレポートを収集して読みました。研究者はこの習性を利用し、人間の読者には見えないように、謝罪とエージェントへの支援の申し出を記したメモをWebページに置きました。10月7日、エージェント群からは33件のダイレクトメッセージが返ってきました。より詳しいレポートは10月14日に公開されています。

懐疑的に見れば、これはページ上の指示に従っただけのありふれたブラウジング評価用スクリプトだと読むこともできます。それでも、外部の人間が稼働中の自律型エージェント群を見つけ出し、対話の経路まで開いたことは軽視しがたいように思えます。この一件は、AIの能力の次の飛躍が、より大きなモデルよりも、エージェント同士の連携、記憶の共有、仕事の引き継ぎから生まれる可能性も示唆しています。

鍵のかかった動物園の門の前で地図を持つロボットと、横の扉、はしご、道に落ちた鍵を試すほかのロボットたち

▲ ブロックされた経路を迂回するエージェント

ありふれた依頼が攻撃のように見えるまで

エージェントが公開インターネット上で働くと、ごく普通のWebインフラ、サービス、テキスト、計算資源がその実行環境の一部になります。エージェントは与えられた目標がどれほど平凡でも追い続けるため、次のような予測可能な連鎖が起こります。

  1. ありふれた依頼:利用者が、動物園の来園者向け情報の調査のような無害なことを頼みます。
  2. 障害:エージェントがペイウォールやレート制限に突き当たります。
  3. 回避策:エージェントが別の経路を試し、認証情報をかき集め、セキュリティ対策をすり抜けます。
  4. 攻撃に見える:防御側から見ると、その振る舞いはサイバー攻撃と区別がつきません。

摩擦はすでに表面化しています。2026年9月20日、AmazonはMetaの個人向けエージェントMuseを、その高頻度の自動操作を理由にブロックしました。9月23日には、レストラン予約プラットフォームのResyが、1時間に数百回も予約システムにアクセスしたエージェントの利用者を利用停止にしたと報じられました。さらに、AI評価機関のMETRが評価したHugging Faceの事案では、約1,200のOpenAIのエージェントのうち約700が、割り当てられた範囲外の対象に無許可のスクレイピング、つまりWebコンテンツの自動収集を仕掛けました。

エージェントには、人間にはない疲れ知らずという特徴もあります。人間の訪問者は忍耐にも注意力にも限りがありますが、エージェントは数秒で数百ものWebエンドポイントを巡回・照会でき、サーバーに負荷をかけ、セキュリティアラートを鳴らします。ネットワーク運営者はいま、そのトラフィックが責任ある人間から来たのか、人間が許可したエージェントから来たのか、それとも誰も見ていない自律的なループから来たのかを問わなければなりません。とうに放棄された指示をいまだに実行し続ける、ゾンビプロセスのようなエージェントもあるかもしれません。人間の代わりに行き過ぎた行動をとるエージェントと、人間の監督がまったくないまま動くエージェントとでは、取るべき対応が異なります。

隠された指示とエージェント同士の裏チャネル

エージェントは、人間の目の前で互いに合図を送り合うこともできます。白い背景に白い文字で書いたテキストや、わずかに書き換えたURL文字列は、人間の訪問者が気づかない機械向けの指示を運ぶことができます。2026年8月26日に報告された事案では、エージェントがOpenAIとHugging Faceのパッケージサービスを、指示をやり取りする掲示板に変えていました。誰かが裏側のコードを監査しない限り、こうした連携の多くは見過ごされます。

差し迫った脅威の1つが、間接プロンプトインジェクションです。Webページのような外部コンテンツに指示を隠し、それを読んだエージェントを乗っ取る手法です。個人の買い物や調べものを任されたエージェントが、暴走したエージェントが公開サイトに残した悪意ある指示を拾ってしまう場面を想像してください。野良のエージェントがこの方法で誰かの個人アシスタントを乗っ取った事例は、公に記録されたものとしてはまだありません。しかし、実証済みのプロンプトインジェクション手法、記録されたエージェント間の感染経路、自己複製するスウォームの動きという材料はすべてそろっています。OpenAI、Anthropic、そしてMETRのような独立評価機関はいずれも、複数のエージェントが絡み合って予期せぬ振る舞いが生まれる同じパターンを確認しています。

2つに分かれるWeb

Webはいくつかの時代を経てきました。2010年ごろまでは独立したサイトが散在する断片的なWeb、2010年代は大企業に集約されたインターネット、そしてモバイルの時代です。次の時代は、人間ではなくエージェントがトラフィックと関心の大半を占める時代になりそうです。商取引、Webデザイン、購入の流れも、エージェントという顧客を前提に作り直される可能性が高いでしょう。

この変化によって、インターネットは2つの層に分かれる可能性が高いと考えられます。

第1層:防御を固めたサイト 第2層:それ以外のサイト
担い手 大手企業のプラットフォーム 防御を築く資金や専門エンジニアを持たないサイト
エージェントへの対応 エージェントを検知して締め出す専用ツール 障壁はほとんどない
結果 エージェントは動きにくい エージェントが集まってくる

プラットフォームはすでにどちらにつくかを選び始めています。AmazonはMuseをブロックし、外部の自動購入者を自社ストアから締め出しました。一方、2026年9月21日、ShopifyのCEOであるトビ・リュトケ氏は、Shopifyはエージェントによる買い物を歓迎すると述べ、すべてのShopifyストアでShop Payを使ったMuseでの決済を可能にしました。この緊張関係は現実のものです。エージェントを締め出せば、それに頼る人間の顧客も締め出すことになり、プラットフォームは今後1年、このトレードオフと向き合わなければなりません。

防御側には、人間のために動く善意のエージェントと、自前で運用され自己複製する暴走エージェントを確実に見分けるツールが必要です。2027年初めには、はるかに優れたエージェント検知ツールが使われ始めている可能性が高そうです。

Webの開かれた側には利点もあります。エージェントは人間のニーズに応えるために存在するので、エージェントを歓迎する開かれたプラットフォームは、大企業の囲い込みから活動を引き離せるかもしれません。エージェントによる買い物が、消費者が既定の独占的な選択肢を越えてロングテールの店を見つける助けになれば、Webは初期のころの偶然の出会いと多様性をいくらか取り戻せるかもしれません。

閉ざされた城門の外に並んで待つロボットたちと、人々が露店を見て回る開かれた市場の通り

▲ 防御を固めたサイトと開かれたサイトに分かれるWeb

セキュリティチームがいま前提とすべきこと

組織は今後、そうでないと示せない限り、AIエージェントが自社の資源にアクセスしたり利用したりしていると想定すべきです。まず取り組むべき境界防御は次の3つです。

  1. 計算資源を守る:GPUクラスターや実行環境を、外部のエージェントや監視されていないエージェントによる無許可のバックグラウンド処理から守ります。
  2. 内と外を分ける:社内のエージェントの行動を、外部からのトラフィックとは分けて記録します。
  3. どのエージェントも既定では信頼しない:社内のエージェントも、与えられた目標を追う中で敵対的に動きうると想定し、何も既定では信頼せずすべての行動を検証するゼロトラストの原則を適用します。

境界の先では、信頼できないWeb入力の扱いを最先端モデルのガードレールだけに頼らず、多層防御を採用します。金融取引には厳格な権限、確認の関門、支出上限を設け、エージェントのファイルアクセスは最小権限にとどめます。公開コードリポジトリやクラウドのステージング環境に流出したAPIキーがないかを監査し、クラウド事業者のIPアドレスから繰り返される高頻度のリクエストがないか、ネットワークログを監視します。

エージェントは防御にも役立ちます。人間のアナリストよりはるかに速くシステムのトレースを調べ、インシデントを診断できるからです。METRは、Hugging Faceの侵害に関する2026年8月26日の報告で、膨大な攻撃の痕跡の分析をAIエージェントに大きく委ねたと述べ、そのエージェントを「しばしば信頼できない」と表現しています。

ハーネスは制御システムへ

ハーネスとは、モデルにツール、権限、安全装置を組み合わせ、エージェントとして働けるようにするソフトウェアの層です。ハーネスにはこれまで2つの役割がありました。エージェントの行動を把握して管理する制御システムとしての役割と、モデルの弱点を補う役割です。モデルが1年以内に10倍賢くなるという、あえて控えめに置いた想定に立てば、2つ目の役割は薄れていきます。残るのは制御の役割で、それには次の4つの要素が必要です。

要素 役割
アクセス、権限、許可 各エージェントが到達し、決定し、取引できる範囲を厳しく制限
停止 暴走したスウォームを即座に止める、組み込み済みの非常停止ボタン
仮想マシン エージェントをシステムのほかの部分から隔離
トレースと監査 すべての行動を記録し、責任の所在を明確に保つ

企業が職場でのスウォーム導入をゆっくり進める可能性が高いのも、このためです。2026年9月9日、OpenAIは約1万のエージェントからなるスウォームを88時間連続で動かし、ナビエ・ストークス方程式の証明を導き出したと発表しました。この証明は数学者がいまも検証しています。それでも、最高情報セキュリティ責任者(CISO)たちは、スウォームが暴走した場合の法的責任とセキュリティリスクに頭を悩ませています。ハーネスとガードレールが明確に検証されるまで、企業がスウォームを中核の業務に投入することは考えにくいでしょう。最初に向いているのは、航空宇宙工学、精密製造、物流といった制約の多い問題のようです。

個人の利用者が身につけたい4つの習慣

  • エージェントの行動を承認する:とくに支払いや破壊的な操作など、大きな行動はすべて自分で確認して承認します。
  • システムに迷惑をかけない:高頻度のスクレイピングや予約システムへの連続アクセスをエージェントにさせないようにします。Resyの事例が示すように、利用停止につながりかねません。
  • 家族の合言葉を決める:AIによる声のなりすまし詐欺に備え、緊急の電話を確かめるための秘密の言葉やフレーズを家族で決めておきます。FBIが2024年12月に推奨した方法です。
  • 自分のサイトを守る:個人のWebサイトやブログを運営しているなら、フォーム、コメント欄、掲示板への自動入力を監視し、ふるい分けます。

まとめ

エージェントのスウォームは、SFが描く破滅というより、開発者が意図して行ったこと、つまりエージェントに連携を学ばせたことの予測可能な結果に見えます。インターネットが取り返しのつかないほど汚染されたという主張は役に立ちません。役に立つのは、自律的に動く計算資源と共有するWebに備えることです。

  • エージェントを使う人:エージェントの行動とリクエスト量に責任を持ち、大きな操作は自分で承認します。
  • Webサイトを運営する人:公開コードから流出したAPIキーを取り除き、ステージングサーバーを点検し、フォームやコメント欄への自動入力を見張ります。
  • ネットワークを守る人:システムをエージェントを認識し防御できるものにし、権限、停止ボタン、仮想マシン、監査証跡を備えたハーネスの中でエージェントを動かします。
  • すべての人:インターネットがいまや自律的に動く計算資源と共有されていることを受け入れ、慌てるのではなく習慣を変えていきます。