エンジニアの経歴を持たない創業者が、PNGファイルをSVGベクターに変換する小さなAI支援型の画像ツールを作り、本格的に取り組み始めてから6か月で月約$3,000の売上を上げるまでになりました。利益率は80%を超えます。ベンチャー資金を調達したわけでも、大規模な計算資源を使ったわけでもありません。成果の大半を生んだのは、いくつかの実務的な判断でした。多くのアイデアを同時に試し、気前が良すぎた無料枠を削り、AIで書いたページで検索流入を広げ、成長で費用が膨らむ前に高コストのサービスから移行したことです。以下の数字はこの1件の事例のものですが、その裏にある判断は検証しやすく、応用もしやすいものです。

肉体労働からソフトウェア事業へ

この創業者がソフトウェアにたどり着いた道のりは異色です。16歳で造園の仕事を始めて3年続け、その後2年間は建設現場で石膏ボードの施工をしていました。暗号資産のコミュニティを通じて開発者の世界、インディーハッキング(一人またはごく小さなチームで小さな製品を作って売るやり方)、一人起業を知ります。その2年後、フランスでデジタルマーケティング会社を共同で立ち上げました。

しかし受託の仕事は彼に合いませんでした。サービスを売り込み、提案し続けることが苦痛だったのです。2025年末、彼と共同創業者は時間を切り売りする仕事をやめ、ソフトウェア製品に全力を注ぐと決めました。この画像変換ツールは、彼にとって初めて安定した継続収入を生んだ製品になりました。

一つの大きな賭けではなく20個の試作

検証されていない一つのアイデアにすべてを懸けるのではなく、多くの小さなツールにリスクを分散しました。主な道具は自律型AIエージェントのManusです。好みの技術構成(Next.js、Vercel、Supabase)を指定した再利用できるプロンプトのひな形を作り、Manusに競合調査、アイデア出し、アプリ一式の土台作りを任せました。

この作業を約20回繰り返し、プロジェクトとドメインをそれぞれ専用のフォルダーに保管しました。分野は自分の専門性で選んでいません。AIに実用ツールを提案させて公開し、利用者が自然に集まる場所を見極めました。ビットマップ画像をベクターに変換するツールは、有料のマーケティングなしで公開直後から訪問者と登録者を集めました。

発想のきっかけは自分自身の不便でした。小さなWebプロジェクト用にAIでロゴを生成すると、出力はピクセルで構成された画像になり、拡大してもぼやけないきれいなSVG版がたびたび必要になったのです。自分用に変換ツールを作って友人と共有したところ、まもなくGoogle Search Consoleに自然検索からの訪問者が安定して現れるようになりました。

ピクセルが目立つビットマップのロゴ図形と、同じ図形を滑らかなベクター曲線にした図を並べたイラスト

▲ ビットマップ画像のベクター変換

利用者1,000人、売上はゼロ

2月にはツールの利用者が1,000人を超え、日々のアクセスも十分にありましたが、売上はゼロでした。原因は単純で、無料プランで25回まで変換でき、たまに使う人の用途はほぼそれで足りていたのです。

設定 変更前 変更後
無料変換回数 25回 3回
有料顧客 なし 毎日新たな有料契約

無料枠を3回に減らすと、よく使う利用者が有料プランに移り、有料契約がすぐに始まりました。同じ頃、カッティングマシンや加工機械向けの連携やエクスポート設定を求める具体的な要望が届き始めました。そこから、狙っていなかった顧客層が見えてきました。CAD(コンピューター支援設計)ソフト、CNC加工、ビニールカッターを使う人々です。単純な変換ツールは、ものづくりをする人や手芸・工作を楽しむ人向けのエクスポートエンジンへと成長しました。

AIで書いたページで検索流入を拡大

自然検索からの流入に手応えを感じると、彼は2月のある朝5時に起き、サイトの検索構造を作り直すと決めました。競合ツールを調べ、検索数が多く競争の少ないキーワードを探しました。人々が検索していたのは「PNG to SVG」だけではありません。「JPEG to SVG」や「photo to vector」といった言い換えや、特定の機械向けのエクスポート用語も検索していました。

Claudeと協力して、変換の組み合わせや用途ごとに20種類のランディングページを作り、それを12言語に翻訳しました。検索語の組み合わせごとにページを自動生成するこのプログラマティックSEOの手法で、ページ数は1,000を超えました。2週間で流入は10倍になり、1日に数百人が訪れるようになりました。競争の少ない他言語の検索を狙ったことが、伸びの大きな要因になったとみられます。

さらに、キーワードを意識したブログ記事を約200本追加しました。初期の被リンク、つまり他サイトから自分のサイトへのリンクは、Product Huntのような製品公開プラットフォームやRedditの専門コミュニティから得ました。約2か月後には、同じ分野のブログにメールで連絡してリンクを交換する方法に切り替えました。先にコンテンツを積み上げ、リンク交換を後に回した順序が効果的だったとみられます。

彼は注意点も挙げています。多言語ページの大量生成は2026年初めには非常にうまくいきましたが、その後のGoogleのアルゴリズム更新により、今は量よりも質に注力する必要があるといいます。今同じ手法をまねても、同じ結果が出るとは限りません。

SEOのツールは最小限です。中心となる作業の20%が成果の80%を生むという80対20の法則に従い、Google Search Consoleから検索クエリと掲載結果のデータを書き出してClaudeに分析させています。5〜6か月前にはキーワードの追跡にSemrushを使っていましたが、今は指標を追いすぎることは気を散らす原因だと考えています。

製品の作り方とコストの抑え方

彼は1日およそ12時間AIツールを使って仕事をしており、プログラミングの約90%をClaudeとClaude Codeが担っています。アイデアを公開中の製品にするまでの流れは次のとおりです。

  1. 似た解決策に消費者や企業がすでにお金を払っているかを確認する。
  2. 要件と参考にする競合を定めた、構造化されたMarkdown文書を1つ書く。
  3. その文書をClaude Codeに読み込ませて文脈を与え、プロンプトのやり取りを重ねてMVP(実用最小限の製品)を作る。
  4. デザイン、フロントエンド、ランディングページを経て、すぐに一般公開する。

デザイン素材はRecraftで作り、マーケティング用のショート動画、カルーセル、SNS投稿はRemotionと、AIモデルが外部ツールを使えるようにするModel Context Protocol(MCP)の連携で作っています。WebアプリはNext.jsで動かし、簡単な紹介サイトはAstroか素のHTMLとCSSで作ります。彼の見立てでは、ドメイン名に約$20払えば、動く製品をオンラインに出せます。

コストは2度大きく見直しました。VercelとSupabaseは立ち上げ時には便利でしたが、利用が増えるにつれて請求額が膨らみました。そこで共同創業者とともに、ドイツのホスティング事業者Hetznerの仮想専用サーバー2台に移行しました。1台がVercelの役割を、もう1台がSupabaseの代わりを担い、Cloudflareが両方を保護しています。変換エンジンは当初、画像ごとにRecraftの外部APIを呼び出していました。これを独自のJavaScriptスクリプトに置き換え、変換のたびにAPI料金がかからないようにしました。現在、生成AIは主に研究開発で使い、新しい機械向けエクスポートのためにエッジ検出とトレースの設定を調整したうえで、調整済みの設定を速度のためにスクリプトに直接組み込んでいます。利用者が増えてもAPIの請求額が比例して増えないこの設計が、80%を超える利益率を支えているとみられます。

木材を加工するレーザー彫刻機、ビニールカッター、刺しゅう枠が並ぶ小さな工房の作業台

▲ ベクターファイルを使う工房の機械

事業の現在の姿

製品は技術に詳しくない人を対象にしています。利用者はPNG、JPG、WEBPファイルをページにドラッグすると数秒でSVGを受け取り、元画像とベクターを並べて比べられます。有料のProワークベンチでは最大50ファイルを一度に変換できます。Cricutのビニールカッター、レーザー・CNC加工機、刺しゅう、看板製作、Etsyの出品者向けに専用のワークスペースを用意しています。機械ごとに必要なパス、ネスティング、レイヤーの設定が異なるため、レーザー・CNCのワークスペースではLightBurn、Vectric VCarve、Fusion 360といったソフト向けの出力プリセットを選べます。

指標 数値
月間売上 約$3,000
サブスクリプションによる月間経常収益 約$1,500、決済ダッシュボード上は€1,326.56
単発クレジットパックの売上比率 約50%
アクティブな契約者 219人
決済ダッシュボード上の新規顧客 1,720人
決済ダッシュボード上の純取引額 €15,691.43
年間プラン Starter $44、Pro $121

売上の半分はサブスクリプションではなく、単発のクレジットパックから生まれています。たまにファイルを変換するだけの趣味の作り手は定期的な課金を嫌うため、使った分だけ払うクレジットが主要な収入源になりました。売上のグラフでは、2月末に最初の有料顧客が現れ、4月にかけて急な上昇を示しています。

新機能の約80%は、顧客の要望と繰り返し寄せられる不満から直接生まれています。サイトに設置したCrispのライブチャットで、変換に苦労している利用者と直接やり取りします。不満を抱えていたある顧客は、彼がトレースの不具合を手作業で直したことで熱心な契約者になりました。彼は、チャットのほうがアンケートやメールより速く、正確なフィードバックが得られると考えています。

うまくいかなかった手法もあります。約5,000通のコールドメールを送って返信は10通ほどで、彼は対象の絞り込みか文面に問題があった可能性が高いと認めています。また、Xでの自然なリーチは以前よりずっと弱くなったと感じており、率直な初期の反応を得るにはRedditのほうが向いているといいます。

この事例から持ち帰ること

これらの数字は一人の創業者の事業のものであり、誰もが期待できる結果ではありません。それでも、判断の順序は参考になります。

  • 自分が困っている問題か、すでにお金を払う人がいる問題から始める。確信が持てなければ、小さなツールをいくつか公開し、どれに利用者が集まるかを見る。
  • Markdownの仕様書を1つ書き、Claude CodeのようなコーディングエージェントでMVPを作り、細部を磨く前に公開する。
  • Reddit、X、Instagramで対象の利用者にメッセージを送り、無料利用と引き換えに初期のフィードバックをもらう。
  • 無料利用者が多いのに売上がないなら、無料枠が手厚すぎないかを確認する。
  • たまにしか使わない人のために、サブスクリプションと並べて単発のクレジットパックを用意する。
  • 利用が増える前に、マネージドサービスと呼び出しごとのAPI料金がどう膨らむかを見積もる。

彼の核心的な助言は、製品がお金を生むのは最初のデザインが完璧だからではなく、差し迫った問題を解決するからだというものです。細部を磨く価値が出てくるのは、お金を払う顧客と安定したフィードバックの流れができてからです。