Microsoftが、Copilotを支えるモデルと、それを動かすチップの両方を入れ替えつつあります。法人顧客がCopilotの品質に不満を訴えてから約1年、CopilotはOpenAIのモデルに加えてAnthropicのClaudeモデルも使うようになり、MicrosoftはCopilotの処理向けに調整した自社AIチップ「Maia」を正式に発表しました。同じころ、OpenAIはSoraの技術をハリウッド向けのスタートアップにライセンスする交渉を進めているとされ、AppleはAIを中心に据えた家庭用ハブを準備し、Chan Zuckerberg BiohubはAIによる医療に向けた$18億規模の提携を発表しました。これらの動きからは、大手テック企業がどのモデルを使うか、どのハードウェアで動かすか、どのプロジェクトを残すかという3つの問いを同時に見直していることがうかがえます。

ClaudeがCopilotに組み込まれた経緯

約1年前、Copilotは信頼性の問題を抱えていました。法人顧客からは、回答が間違っていることが多い、バグが多く動作が遅い、Excelの数式を書いたり使えるPowerPointの資料を作ったりといった基本的な作業すらうまくこなせない、といった声が上がっていました。

現在Copilotを統括するMicrosoftのエグゼクティブバイスプレジデント、チャールズ・ラマナ氏が提案したのは、異例の解決策でした。OpenAIの直接のライバルであるAnthropicからモデルのライセンスを受けるというものです。MicrosoftはOpenAIと深い独占的パートナーシップを結んでいたため、社内ではこの案は異端に近いと受け止められました。ラマナ氏はサティア・ナデラCEOに両社のモデルを並べて比べるデモを見せ、複雑なオフィス業務ではClaudeのモデルがOpenAIのモデルを明らかに上回りました。

その6カ月後、ナデラ氏はCopilotを支えるバックエンドのエンジニアリングチームをすべてラマナ氏の下に置きました。ラマナ氏は現在、Officeのアプリケーション部門に加え、どのモデルがタスクを担当し、モデルをどう組み合わせるかを決めるAIシステムも率いています。今月初めには、ナデラ氏からOfficeの製品組織全体も任されました。

ラマナ氏はさらに、分かれていたCopilotのエンジニアリングチームを1つに統合し、社員が「嫌なやつはお断り(no jerks)」と呼ぶ方針を打ち出しました。10年ほど前のMicrosoftで知られた、社員を順位付けして競わせる文化と意図的に決別するものです。

「AI界のCostco」を目指すCopilot

ラマナ氏が掲げる目標は、Copilotを企業向けの「AI界のCostco」にすることです。お金に余裕のない学生からFortune 500企業の幹部まで、トークンの高額な請求に悩まされることなく、同じ費用で最も多くの有用な仕事をこなせるようにするという考えです。トークンとは、AIモデルが処理する小さなテキストの単位で、事業者が料金を決める基準にもなっています。

この目標の背景には競争があります。OpenAIとAnthropicは法人顧客をめぐって価格競争を繰り広げ、Microsoftを通さずに自社のプラットフォーム上で直接開発するよう企業に働きかけています。Microsoftは両社と提携しながら、販売では両社と競わなければなりません。Windows、Azure、Microsoft 365でビジネスソフトウェアを押さえてきた同社にとって、生成AIはここ数十年で最も厳しい法人市場の競争をもたらしました。顧客がAI投資の見返りを問い始めるなか、従来の価格決定力を保つのは難しくなるかもしれません。

ラマナ氏はエンジニアに外部のツールを研究させてもいます。Copilotのワークフロー機能「AutoPilot」は、チームが人気のオープンソースプロジェクトOpenClawを調べたうえで設計されました。

Microsoftの自社AIチップMaia

Microsoftは、自社開発のAIアクセラレーターチップ「Maia」シリーズを正式に発表しました。開発と社内導入が8月に初めて報じられたMaia 300シリーズは、Microsoftによると、Copilotの処理を実行する際に、AIに広く使われるグラフィックスプロセッサーであるNVIDIAのGPUよりも効率が高いといいます。同社は来年から世界各地のデータセンターに数ギガワット分のMaiaを展開する計画で、これはチップ数百万個に相当する規模です。

Microsoftが見込む効果は3つあります。

  • NVIDIAへの依存の低減:巨額のハードウェア予算のうち、1社の供給元に流れる割合が下がります。
  • Copilotのコスト削減:自社AIサービスの計算コストが下がり、利益率が改善します。
  • 貸し出せるGPUの増加:社内の処理をMaiaに移すことで、需要の高いNVIDIAのチップを、計算能力を借りるAzureの顧客に回せます。

現時点でMicrosoftは、Maiaを一般のAzure顧客向けの製品ではなく、自社ソフトウェア向けのチップと位置づけています。外部の顧客も歓迎するとしていますが、確認された顧客はまだいません。夏にはAnthropicにMaiaを使ってもらうための協議も行いましたが、合意は公表されていません。

残る課題は製造です。Microsoftは受託生産を手がけるTSMCと、来年から数十万個のMaiaチップを生産する交渉をしたと報じられています。競合他社も同じ工場の生産能力を奪い合っているため、どれだけ確保できるかが計画の成否を左右する可能性があります。

データセンターのサーバーラックを背景に、回路基板に載った独自設計のAIアクセラレーターチップを接写した画像

▲ NVIDIAへの依存を減らす自社チップ

ハリウッドで再起を図るSora

OpenAIは今年初め、動画生成モデルSoraと関連する消費者向け動画アプリを縮小し、計算資源と資金をChatGPTと法人向け製品に振り向けると表明しました。そのOpenAIが今、Soraの中核技術を外部の企業にライセンスする交渉を進めていると報じられています。

相手は社名がまだ明かされていないステルス状態のスタートアップで、エンターテインメント業界の大物ジェフリー・カッツェンバーグ氏、OpenAIでSoraを率いた研究者、Dropboxの元最高財務責任者が共同で設立しました。Soraをハリウッドのスタジオ向けに作り替え、スタジオに直接販売する計画です。これまでのSoraの構想は消費者向けの動画ツールやソーシャルアプリが中心でしたが、この事業は純粋に企業向けの映像制作ビジネスです。

OpenAIにとっての利点は明らかです。動画AIにすでに投じた研究と計算資源から見返りを得られ、株式を持つことで、開発コストを負い続けずに成功の果実を分かち合えます。創業者たちは、カッツェンバーグ氏のスタジオとの人脈とSoraに関する深い専門知識を組み合わせれば、競合にない強みになると考えているようです。

一方で、ハードルは高いといえます。

  • 俳優や脚本家、撮影スタッフが仕事を失うことを恐れており、スタジオやハリウッドで働く人々はAIへの警戒を解いていません。
  • AI動画企業のRunwayは当初、映画制作者に売り込みましたが、ハリウッドを事業にするのは難しいとわかり、より幅広い法人顧客へと方向転換しました。
  • このスタートアップは、AIによる制作パイプラインで、スタジオが受け入れる品質の長編作品を作れることを示す必要があります。
  • 事業はまだ始まったばかりで、ツールをライセンスするのか、自ら映画を制作するのかも決まっていません。

再び手を広げるOpenAI

Soraをめぐる交渉は、より大きな流れの一部です。OpenAIはロボティクスの取り組みを再開し、Patreonの共同創業者を迎えてクリエイター向けの新しい製品部門を任せ、個人向けハードウェア機器の開発も続けています。こうした幅の広さは、多くの製品を同時に試していた以前のやり方に戻ったようにも見えます。ただし長続きしないかもしれません。Anthropicなどのライバルが株式上場を検討し、投資家が利益を求めるなか、すぐに収益を生まない実験的なプロジェクトは再び削られる可能性があります。

ガレージに置かれるAIサーバー

シリコンバレーでは、空き部屋や屋根裏、ガレージ、地下室、さらにはワインセラーまでを小さなAI計算室に変えるエンジニアやAI愛好家が増えています。AppleのMac miniやMac Studio、AMDやNVIDIAのグラフィックスカードを買い込み、電力消費に耐えられるよう自宅の電気配線を改修した人もいます。

こうした環境で動いているのは、ほぼすべてがオープンウェイトモデルです。学習済みのパラメーターが公開され、誰でもダウンロードして実行できるモデルを指します。AlibabaのQwenファミリーが人気で、新たに公開された欧米のオープンウェイトモデルも使われています。クローズドなモデルは、個人のハードウェア上で同じように完結した形では動かせません。

主な動機は2つです。

  • コスト:クラウドAPIのトークン料金や月額サブスクリプションは積み重なりますが、ハードウェアは一度買えば済みます。高性能なGPUやMac、電気代を含めても、ヘビーユーザーにとってはローカルでの計算のほうがクラウドのトークン料金よりはるかに安上がりです。
  • プライバシー:商用製品の試作品を作る開発者は、自分の入力がAI企業の将来のモデルの学習に使われることを望んでいません。

この流れは、1990年代後半から2000年代前半に愛好家たちが自宅に作ったメディアサーバーを思い起こさせます。ただ、ローカルAIは個人の生活や日々の仕事の進め方、知的財産に関わるため、より定着しやすいかもしれません。一方で高度なITスキルが求められるため、大半の消費者はクラウドサービスを使い続けるとみられます。

小型コンピューターやグラフィックスカード、新しい分電盤を備え、自宅のAI計算室に改装したガレージ

▲ ガレージに設けた自宅AIサーバー

Appleが10月14日に開く家庭向けイベント

Appleは10月14日、スマートホームをテーマにしたイベントを開きます。数年がかりで開発してきた統合型のホームハブとスマートホーム機器を発表するとみられ、GoogleとAmazonのエコシステムに追いつく狙いがあります。Appleは新しいハブの中心にSiriとAIを据える計画ですが、Siriは長らく競合の音声アシスタントに後れを取ってきました。

Appleはこの18カ月、以前より頻繁にイベントを開いてもいます。夏のWWDCでソフトウェアを、秋に新しいiPhoneを発表するという従来の日程では、2週間ほどごとに更新を出すAIスタートアップのペースについていけないため、話題になる機会を増やして存在感を保とうとしているようです。

Biohubが$18億の提携で挑むAI医療

マーク・ザッカーバーグ氏とプリシラ・チャン氏の生物医学研究組織Chan Zuckerberg Biohubは、政府や産業界のパートナーと組む$18億規模の提携拡大を発表しました。AIモデルを使って、あらゆる病気の治療、予防、または管理を目指します。パートナーにはMeta、Google DeepMind、そしてGoogle DeepMindから分社化した創薬企業Isomorphic Labsが名を連ねます。この取り組みは、Biohubが4月に始めた、人間の細胞の働きを予測するAIシミュレーションを作る$5億のプログラムを土台にしています。

作業の多くはデータに関わるものです。大学や政府機関に散らばる数十年分の生物学データを整理・標準化し、AIシステムが学習できる形にしなければなりません。そうすることで、人間の研究者が見落としてきた病気のパターンや創薬の標的を、最先端のモデルが見つけることが期待されています。

この提携は、米国の生物医学研究を誰が主導するかが変わりつつあることも示しています。第二次世界大戦以降、その原動力は研究大学と大学医療センターでしたが、今では政府が大手テック企業と直接手を組んでいます。大学は大規模な研究室を持つため引き続き重要ですが、基礎研究での優位は薄れつつあります。AI企業も独自の研究室を構え始めています。Anthropicは、実際に生物学の実験を行う施設であるウェットラボを小規模ながら設置しました。製薬会社は、テック企業との合弁事業や独自のAIモデルで対応しており、Biohubは世界的な製薬会社数社を提携に加える計画です。

注意すべき点もあります。AIが従来の方法より速く、あるいはより良く新薬を独自に発見できることは、まだ証明されていません。テック企業は、AIのリスクや雇用喪失への世間の不安を和らげる手段として、医療への投資を位置づけているようにも見えます。最終的に長く信頼を得るには、患者に届く実際の薬を生み出す必要があります。

注目点と今できること

プレーヤー 動き 注目点
Microsoft CopilotにClaudeモデルを導入、Maiaチップを発表 TSMCの生産能力をどれだけ確保できるか
OpenAI ハリウッドのスタートアップへのSoraライセンス交渉 契約が成立するか、どんな形になるか
自宅でAIを動かす人たち 個人のハードウェアでオープンウェイトモデルを運用 電力と保守の負担
Apple 10月14日のホームハブ発表イベント SiriとAIの役割
Chan Zuckerberg Biohub $18億規模のAI医療提携 研究室で確かめられた創薬の成果

共通しているのは、どこも単一の企業、モデル、チップに依存したくないという点です。Microsoftはライバルのモデルを取り入れて自社チップを作り、OpenAIはコストのかかる周辺技術を自ら運営するよりライセンスする道を選び、ヘビーユーザーはクラウドより自前のハードウェアを選んでいます。実践できる手順は次のとおりです。

  • 組織でAIツールを選ぶなら、1社のモデル提供元に頼るのは避けましょう。スプレッドシートの数式やスライド資料など実際の業務で、複数のモデルを並べて試しましょう。CopilotにClaudeが加わったのも、こうした比較がきっかけでした。
  • AIを多く使い、APIの料金や自分のデータが学習に使われることが気になるなら、Qwenのようなオープンウェイトモデルを自前のハードウェアで動かすことを検討しましょう。購入する前に、電気容量とチームのITスキルを確認しておきましょう。
  • 大手テック企業のAI戦略の行方を知るには、Maiaの生産量、Soraのライセンス交渉の結果、AIが見つけた新薬候補が実験室での検証に耐えるかどうかという3つのシグナルを追いましょう。