一つのシステムにすべてを任せなくても、企業は数十のAIエージェントを業務に投入できます。この事例では約36のエージェントがLinearを通じて開発タスクを担い、コンテンツ制作、メール、会議、管理業務はそれぞれ別のツールが支えています。より大きな意味を持つ設計判断は、業務の置き場所にあるのかもしれません。この会社は、すべての業務フローを借り物のビジネスプラットフォームに載せるのではなく、講座プラットフォームと中核データを自ら管理するインフラで運用しています。

並行開発を一つのタスクボードで管理

開発業務の中心となるボードはLinearです。エージェントはバックログのタスクを受け取り、機能を実装し、コード変更を用意し、自動品質チェックを実行して、作業をデプロイへと進めます。約36のエージェントが別々の取り組みを進める状況では、この共有タスク記録が重要になります。何を割り当て、各タスクがどこまで進んだかを把握できる場所になるからです。

コーディング環境にはClaude Code、Codex、Kimi、DeepSeek、Geminiを使います。これらすべてに同じ種類の作業を割り当てるわけではありません。OpenRouterが言語モデル間でリクエストを振り分け、大量の定型タスクにはGemini 2.5 Flash、より高度な推論や設計にはClaude Sonnet 4を使います。言語モデルはタスクの背後にある推論を担い、エージェントはツールや割り当てられた作業も含むワークフローの中でモデルを使います。

CMUXは、エージェントのターミナルセッションを調整するのに役立ちます。ターミナルとはソフトウェアのコマンドを実行するテキストベースの操作画面で、複数のセッションを管理することで並行するコーディング作業を整理された状態に保てます。デスクトップ環境はMacで、キーボード操作のショートカットと自動化にはAlfredを使います。このハードウェアの選択はこの事例のワークフロー上の好みを反映したもので、あらゆる企業に必要だと示されたわけではありません。

白紙のタスクカードが並行するコーディングの流れに分かれ、デプロイ前のレビュー関門で合流する様子

▲ レビュー関門付きの並行コーディング

タスクボードは有用な限界も示しています。自動テストとデプロイの経路があっても、それだけでは顧客にどの機能が必要か、どの成果を受け入れるべきかは決まりません。そうした判断を人が見える状態に保つことは、タスクの完了をビジネス上の承認と同一視せずに並行エージェントを活用する実践的な方法です。

アプリケーションとデータを直接管理する

この会社は、借り物のプラットフォームを事業の中心に据える代わりに、研修とコミュニティ資料のための独自の講座プラットフォームを運用しています。懸念しているのは依存です。サブスクリプション型プラットフォームへのアクセスが途絶えると、そこに置いたワークフロー、顧客獲得の導線、記録が使いにくくなるおそれがあります。セルフホスティングはその懸念への答えであり、オールインワン型プラットフォームの機能追加を待たずに独自の連携や変更を加える手段でもあります。

Railwayは、仮想専用サーバー(VPS)上でアプリケーションをホストします。VPSとは、ソフトウェアを動かすために借りるサーバー環境です。この構成では、構造化された記録のためのデータベースであるPostgreSQLもRailway上で使います。CloudflareはDNS、パフォーマンス、ドメイン保護を担い、画像や動画を主要なアプリケーションサーバーとは別に保存します。ドメイン登録はPorkbunで管理し、トランザクションメールと送信型のメールはResendが担います。

ホストされたアプリケーションと構造化データベースが中核の境界内にあり、メディアファイル保存領域と分かれた構成

▲ 中核の業務データと分離したメディア保存

この分担により、項目や表として整理された記録と大容量のメディアファイルが分けられます。同時に、この会社が何を中核と考えているかも明確になります。それはアプリケーション、データベース、そして業務フローです。セルフホスティングをしても、その中核に関する判断が不要になるわけではありません。アプリケーションがどのデータを保持するか、どの連携を許可するか、変更の責任を誰が負うかは、依然として誰かが決めなければなりません。

この手法で示された開発ペースは、1社の顧客に対して1週間で最大60の独自機能に達します。これはこの事例での成果であり、同じツールを導入した企業にとっての一般的な速度目標ではありません。

制作と配信には別々のツール

コンテンツ業務はソフトウェア開発とは異なる経路をたどります。CAMはショート形式とロング形式の制作を自動化し、Kie.aiはChatGPT Image 2やSeedance 2.0などのツールを通じて生成された画像と動画の素材を提供します。配信はStreamlabsが支えます。Zernioは会社の各ソーシャルアカウントに投稿を配信し、Cloudflareはアプリケーションやページで使うメディアファイルを保存します。

Gling.aiが担うのは、範囲は狭いものの繰り返し発生する編集作業です。撮影素材から間、撮り損じ、つなぎ言葉を取り除きます。この会社は、毎週新しい講座を制作していた時期にこれを導入しました。CapCutは、手作業による見た目の調整がときどき必要な場面のために残しています。この分担によって、反復的な後処理は自動化しつつ、あらゆる創作上の判断をAIツールに委ねるとは考えずに済みます。

同じ考え方はAIアバターへの向き合い方にも表れています。HeyGenは、有料契約を続けてはいるものの、日々の制作環境には含まれていません。この会社は、アバターに作業を代わらせる前に、オリジナル動画の作り方を身につけることを重視しています。これは制作上の判断であり、アバターツールが他の場面で役立たないという主張ではありません。

メール、会議、日常業務のアシスタント

独自に作ったエグゼクティブ向けAIアシスタントは、連絡の下書きと仕分け、予定の管理、コンテンツパイプラインとの連携、終業時のブリーフィング作成を担います。この構成での推定運用コストは月約$20ですが、この数字はこの事例のもので、他社が見込むべき価格ではありません。コマンドライン型のメールツールであるHimalayaは、GmailやOutlookを含む複数のメールアカウントをまたいでアシスタントが作業できるようにし、受信箱ごとに手作業を分けずに済むようにします。

会議業務は目的別に分けています。Fathom AIは顧客のオンボーディングや計画の通話を記録し、要約とアクションアイテムを作成します。ここで示された料金は月$20です。Granola AIは文字起こしと通話中の営業支援を提供します。あるコンサルティングの事例では、その価格に関する助言を受けた後に、提示価格を2倍にする決定が下されました。この結果はその事例に限ったもので、他の企業がいくら請求できるかを示すものではありません。

こうしたシステムを指揮する人のために、Wispr Flowは話した指示をテキストに変換します。短く打ち込んだプロンプトに頼らず、エージェントに詳しい文脈を伝えることが狙いです。Obsidianは業務上の知識を蓄え、1Passwordは認証情報を一元管理します。これらのツールは、要件の説明、情報の検索、アクセスの管理という、運用の中で人が担う部分を支えています。

この構成から学べること

この構成は、すべてをこなす単一のツールを探すのではなく、責任ごとに業務を分けています。Linearがエージェントによる開発を追跡し、専用アプリケーションがメディアと会議を担い、独自プラットフォームが中核の記録を事業の手元に置きます。36というエージェントの数よりも、エージェントを取り巻く境界線のほうが示唆に富んでいます。

同様の手法を検討している企業は、まず次の三つを整理することから始めるとよいでしょう。

  1. 割り当てて追跡できるタスクと、人による確認が必要な成果を見極めます。
  2. 構造化された業務記録とメディアファイルを分け、それぞれをどのシステムに置くかを決めます。
  3. 映像の編集や通話の要約のように、繰り返し発生する業務を解決する場合に限って専用ツールを選びます。

この順序なら、ツールの一覧よりも人の優先順位とデータに関する判断が先に来ます。エージェントは相当な量の作業をこなせますが、どの作業が重要で、その結果が使える状態にあるかを決めるのは、依然として事業の側です。